大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和45年(ネ)574号 判決 1972年1月28日

控訴人 磐田信用金庫

理由

一、請求原因の事実は、原審証人有賀政雄の証言(第一回)によつて成立の認められる甲第二号証の一と同証言によつて認められ、右認定に反する証拠はない。

二  《証拠》を総合すれば、次の事実が認められる。

1  訴外中村貢はその子の訴外中村和良名義の原野三町余を有賀政雄の控訴人に対する前示取引上の債務の抵当物件として控訴人に差入れていたところ、昭和三九年五月頃造林融資に関連して右抵当権を消滅させることとなり、その代りの根抵当物件として被控訴人(中村貢の妻の兄で一時有賀政雄の経営する会社に勤務した)所有にかかる山林二反余を差入れることとし、有賀政雄、中村貢、被控訴人、内山弁吉らが相談の結果、控訴人と打合わせた後、同年六月初め頃、有賀の居住地である静岡県磐田郡佐久間町川合の近くの同町浦川の小西屋旅館へ、当時長野県下伊那郡南信濃村に居住していた被控訴人を招いた。被控訴人はその実印と印鑑証明書(甲第一〇号証)を携行し、有賀が持参した形式の整つた不動文字を印刷した用紙を利用して、右旅館において「根抵当権設定契約者兼連帯保証人」と肩書のある部分に自己の署名捺印をして、根抵当権設定契約書(甲第六号証)を作成するとともに、「連帯保証人」と肩書のある部分に自己の署名捺印をして取引約定書(甲第二号証の二)を作成した。

2  そうして右二通の書類と被控訴人の印鑑証明書を、被控訴人から預つた有賀がその頃控訴人方へ持参してこれを差入れ、同月一一日頃控訴人と被控訴人との間に有賀の前示債務についての連帯保証契約が結ばれた。

右認定に反する《証拠》は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

すなわち被控訴人は有賀政雄の前示債務について控訴人に連帯保証したものである。

三  そこで次に被控訴人主張の錯誤の抗弁について判断する。被控訴人は小西屋旅館における前示二通の書類の署名捺印は、同所において酒を相当量飲み、かなり酩酊した挙句の署名捺印であつて、被控訴人自身としては単にその所有山林一筆を抵当に差入れるだけの積りだつた旨供述するが(原審第一回と当審)、前示書類(甲第六号証、同第二号証の二)にはそれぞれ明白に前示各肩書が印刷されており、その該当部分に正確にかつ明確な字体で署名され、捺印されていることは、右甲号各証によつて極めて明らかであつて、被控訴人主張の如き誤解を生ずる余地があるとは到底解せない。そうして他に被控訴人主張の錯誤を認めるに足る証拠はない。

してみればこの点の抗弁は採用できない。

四  次に被控訴人主張の心裡留保の抗弁について判断する。

被控訴人が連帯保証する意思がないことを自ら認識しながら、あえて連帯保証する虚偽の意思表示をしたとの事実は、これを認めるに足る証拠は全くないので、この点の抗弁もまた採用できない。

五  してみれば、他の点の判断をまつまでもなく、被控訴人は有賀政雄の前示債務について連帯保証人としての債務を負うものというべきである。

六  そうして請求原因3の事実は、《証拠》を総合すれば、有賀の控訴人に対する本件取引は右約束手形の不渡によつて破綻し、期限の利益を失い、控訴人より解約され、結局被控訴人の本件根保証契約の基本関係は既に終了したことが認められる。

七  次に請求原因4の事実の内、一〇万円以外の弁済は当事者間に争いがなく、右一〇万円の弁済は控訴人の自陳するところなので、被控訴人は控訴人に対し、右残元本七、八六〇、七一六円と内金二〇〇万円に対する弁済期の翌日である昭和四一年八月一六日より、内金五、八六〇、七一六円に対する(一部遅延損害金の支払を受けた日の翌日である)昭和四三年五月二三日より各支払ずみまで約定の日歩四銭の遅延損害金を支払う義務があるというべきである。

八  よつて、これと異なり控訴人の本訴請求を棄却した原判決は失当であつて控訴は理由がある

(裁判長裁判官 浅賀栄 裁判官 田中良二 川添萬夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例